実は同じじゃなかった日本語の「はい」と英語の「イエス」

英語を訳すときに一番簡単な単語と言ったら、たぶん「Yes→はい」と「No→いいえ」だと思います。
もちろん、辞書にもこのとおりに書いてあります。
ところが、実際には「Yes」を「はい」と訳せないときがよくあります。そして、それと反対に「はい」が「Yes」ではない場面も沢山あるのです。

 

英語の「Yes」が「はい」じゃないとき

 

まずこの短い映像を見てください。
これは2019年のオーストラリアでの競馬中継なのですが、なんと後ろからどんどん上がってきた馬がゴール直前で1番だった馬を抜いて、鼻先だけで勝ってしまったレースです。

 

 

アナウンサーの実況が段々と迫力を持ってレースのが終わるまで続くのは、見ていても楽しいものです。
そして、レースの終盤を見ると、1分目ぐらいからアナウンサーの実況が「YesYesYes! YESYESYES!!!!」と興奮してくるのがわかります。

でも、これを「はいはいはい!!! はいはいはい!!!とは訳せませんよね。なんだか変です。

そして、今度はこちらです。
ものすごく昔の話ですが、1936年のベルリン・オリンピックの映像が挟まれています。日本人として初めて金メダルをとったのが、この女子200m平泳ぎ決勝での前畑秀子でした。

実況はもちろんラジオです。当時はテレビもネットもありませんでしたから。
アナウンサーは河西三省。この実況放送で歴史に残る「前畑ガンバレ」を叫んだひとです。その名実況をご覧ください。

 

 

河西三省はこの実況で20回以上も「がんばれ」と絶叫しました。それどころか、興奮する観衆が立ち上がったせいで前が見えなくなったので、マイクを握って机の上に立ちあがり、置いてあったストップウォッチを踏みつぶしてしまったそうです。

さて、この実況での「がんばれ」が、実は先の競馬での「YESYESYES!!!」なのです。

前畑秀子が勝ったとき河西三省は「勝った勝った勝った!!!」と叫びましたが、これも先の競馬ではやはりアナウンサーが勝ち馬を見ながら「YESYESYES!!!」と連呼しています。

もうおわかりでしょう。英語の「Yes」は「はい」だけではないのです。
何かいいことがあったとき、ラッキーなことが起こったとき、勝ったとき、いいものをもらったとき、宝くじがあたったとき、そんなときにそれを肯定する感情も「Yes」で表現できます。

つまり、周りに誰もいなくたって英語では「Yes」と言えるのです。

 

日本語の「はい」が「Yes」じゃないとき

 

日本語の「はい」には必ず相手がいます。知っていましたか?

 

相づちの「はい」:

〇〇の話なんですが(はい)☓日にもらった書類に(はい)日付の間違いがあったんです(はいはい)それで(はい)その部分を(はい)メールでお送りしますから(はい)修正してほしいんですが(あーはいはい、もちろんです)。

よくある電話の会話ですが、カッコの部分は相手の相づちです。
この場合の「はい」は「聞いていますよ」ぐらいの軽い意味しか持っていません。英語で言う「Uh-huh」ですね。ところが、英語で会話をしているときにこの「Yes」を連発すると、相手は「なんだ、なんでイチイチ わかった!わかった!そうか!よし!と言うんだ。わずらわしい。バカにしているのか?」と思うときもあります。Uh-huhぐらいにしておいたほうがいいかもしれません。

 

否定の疑問に「はい」:

これは中学の英語にも出てきますね。
日本語では「今、そちらでは雨は降っていませんか?」「はい、降っていません」ですが、英語では「Isn’t it raining there now?」「No, it isn’t」になります。

日本語では相手が言ったことに対して「同意」を示すときには、相手の疑問がたとえ否定文であったとしても「はい」と答えます。ところが、英語ではその否定的疑問に対しては「否定」の事実をもって「No」と答えるわけです。

実は、わたしも時々迷います。
感覚がいまだに日本語から来ているので、特に「Do you mind if I borrow this?」(これ借りてもいい?)と言われると、「Yes, sure!」などと元気に答えて、あとから「あれ?」となることがあるのです。
直訳すると「これを借りたら迷惑ですか?」なので、もちろん「No! 迷惑じゃないです」と答えなければならないんですけどね。

 

 

「Yes」でも「No」でもそれに続く状況判断のほうが大事

 

色々と書きましたが、実はわたしが先の「Do you mind if I borrow this?」に「Yes!」と答えても、相手は別に気にもとめません。わたしの言い方で「迷惑じゃない」ということがわかるからです。

わたしが怖い顔をして「Yes, I do mind.」と言ったら、相手も「おっと、まずいことを聞いてしまった」と思うでしょう。状況や雰囲気によって、受け答えがちょっとぐらい間違ったとしても、相手の思うところを判断できるのはどの言語でも同じです。

英語を話す機会がそんなに多くなくても、言語にはこうした違いもあるということを知っておくと、話のタネになるんじゃないかと思います。