「懐石料理」か「会席料理」か、どちらの漢字か迷ったことはありませんか?

コンピューターや携帯で「かいせきりょうり」と入力して変換すると、「会席」と「懐石」が出てきて、どちらの漢字を使ったらいいのか迷ったことはありませんか?

このふたつの言葉は「料理」であることには間違いありませんが、同音異義語なのです。
前回の「同音異義語」と同じく意味が違います。

間違って書いて恥をかかないように「同音異義語」の漢字をチェックしよう!

 

「懐石料理」の起源は茶の湯だった

 

「懐石料理」は、元々茶道の千利休が始めたとされる料理です。
茶の湯でお茶をすすめる前に空腹ではいけないということで、簡単な食事を出したのが始まりでした。これを「茶懐石」と言います。かなりシンプルな料理で「一汁三菜」が一般的。つまり汁物がひとつ、そしておかずが三つとなっています。

 

 

「懐石」という言葉自体は、禅宗の「温石」とも呼ばれた「石を温めてふところに入れる」簡単な暖房具のことでしたが、茶の湯の料理としえ定着した経緯については、諸説あります。
ただし、禅僧が食べるものがないときに、空腹しのぎに温めた石(温石=おんじゃく)をふところに入れたから、という説が一般的に伝わっているようです。

現在の茶道や料亭に見られるような「懐石」料理は、江戸時代に手間をかけた素晴らしい様式美が客のもてなしに通ずるとして流行したところから、発達してきました。

料亭などの場合「懐石」と書いてはありますが、その豪華で美しい料理の数はかなり増えていて、一汁三菜とは言えないものになっています。そのため、茶の湯でまずすすめられる本来のシンプルな「懐石」は「茶懐石」と名を変えて区別されるようになったということです。

さて、「懐石料理」と書いてはきましたが、実は「懐石」の中に「料理」の意味が含められているために、「料理」をつけ加えると重言になります。
でも、現在ではやはり「懐石料理」として定着してしまったようですね。

 

「会席料理」は目的が違う

 

「懐石料理」が「茶を楽しむために一時的に空腹を満たす料理」であるのに対して、「会席料理」は「酒を楽しむための宴会料理」のことです。
音がどちらも「かいせきりょうり」なので混同されてしまいがちですが、実は全く違った目的を持つ料理です。

 

 

その違いは目的だけにとどまらず、料理の配膳にも現れています。
「懐石料理」は、ほんの少しではありますが、汁と飯はおかずと一緒に供されます。「会席料理」では、汁と飯は普通全てが終わった最後に供されるので、少し違いますね。「会席」の場合鍋物などもありますので、シメとして飯や麺が最後に来るのが普通なのでしょう。

また「懐石料理」は茶の湯の様式美に通じる格式があり、食べる順番も厳格に決まっています。お酒が出るのは、最後に酒の肴が出たときです。でも「会席料理」は最初から酒もかなりはいることから、もう少しカジュアルな雰囲気になることが多いと思います。年の終わりの忘年会もこの「会席料理」ですね。

ですから、わたしたちが普段料亭などで注文するのは、そのほとんどがこの「会席料理」だと思います。

 

「本膳料理」をもとにした庶民のための「会席料理」

 

 

もうひとつ、「本膳料理」という言葉を聞いたことがありますか?
これは室町時代にひとつひとつの膳に料理を載せた料理で、儀式的な色合いが濃く、もともと武士の礼法にのっとって客をもてなす日本料理の原型です。配膳の順序から厳しいきまりがあり、料理への口のつけかたまで作法を固く守り、食事というよりもむしろ「儀式」と言ったほうがよい料理でした。今では結婚式の三三九度にわずかに残っている程度です。

明治以降ほとんど廃れてしまいましたが、これが庶民に伝わってもっと気楽な「会席料理」になったと言われています。

 

今では料亭でも「会席料理」に「懐石」という名をつけることもあり、「懐石」か「会席」か区別がつかない料理も多くなってきました。
それでも、知識として「懐石」「会席」「本膳」の違いを知っておくのも、日本人として大切なことではないかと思います。