現代ではネットとスペルチェックや漢字変換の普及とともに、文章を書くことが非常に楽に便利になりました。でも、だからと言って誤変換がなくなったわけではありません。
うっかり書いてしまった(あるいは変換してしまった)漢字が、全く違う意味を持っていることもあるのです。線が1本抜けているくらいだったらまだかわいいものの、「文章の意味」が伝わらないような漢字を使ってしまった場合、恥をかいてしまうかもしれません。
もう何年も前ですが、当時の友達のひとりから手書きカードを受け取ったことがあります。
「あなたが欲しがっていたXXを△△の矢台で見つけたよ。楽しんくれるといいな!」というような内容でした。
とても嬉しいプレゼントに添えられたカードでしたが、「矢台」とは…「屋台」のことだったのです。
携帯を使わないで手書きだったために、間違えてしまったのでしょう。それでも何年もたつのにわたしが覚えているのは、その漢字の間違いが少々衝撃的だったためだと思います。
今回は、使用頻度が高い同音異義語、つまりあなたがうっかり間違えて使ってしまった場合に気がつくひとが多い漢字を集めてみました。
あなたのおじさんは「伯父」か「叔父」か
わたしが子どものころは、必ず親戚にもきちんと手書きの年賀状と暑中見舞いを出すように両親から言われていました。
段々と習った漢字が増えてきたころ、父の兄夫婦に覚えたての漢字を結構たくさん入れて年賀状を書きました。そして、返ってきた年賀状には…
「がびちゃん、年賀状をどうもありがとう。ひとつだけ間違えているから気をつけようね。僕は『叔父』じゃなくて君の『伯父』なんだよ。君のお父さんの兄だからね。』
そして、わたしは宛名に「XX叔父様叔母様」と書いたことに気づいたのです。びっくりしました。つまり、全く知らなかったからです。そして、今でもそのことをハッキリと覚えているのは、とても恥ずかしかったからです。
- 伯父は父か母の「兄」、そして伯母は父か母の「姉」
- 叔父は父か母の「弟」、そして叔母は父か母の「妹」
わたしが小さな子どもでしたから伯父も苦笑しながら直してくれたのでしょうが、大人同士のやりとりで自分の「おじさん」について書くときに間違ってしまったらと思うと、あのときの恥ずかしさはわたしにとって返って幸運だったのかもしれません。
「暖かい」日でも「温かい」紅茶が飲みたい
これもよく間違える「同音異義語」です。
「暖かい」は「寒い」の対語ですから、飲み物やひとの人格に対しては使えません。
反対に、「温かい」は「冷たい」の対語ですから、「温かい紅茶」や「温かい人柄」にはよくても、「暖かい気候」や「暖かい土地」には使えません。
英語だとこうした違いはありませんから、warmは人柄にも気候にも使えます。
漢字は表意文字ですから「意味が大体わかるときが多い」便利な文字ですが、反対に同音でも意味が全く違うものがあるので気をつけたいものです。
本筋から外れますが、英語の場合 warm drink、warm meal とは言いません。ほとんどの場合、hot drink か hot mealです。warm と言ってしまうと、どうも生ぬるい(=lukewarm)という感覚に結びついてしまうからかもしれません。
手は「伸びる」が、寿命は「延びる」もの
「伸びる」と「延びる」もどちらを使ったらいいのか迷うことがあります。
そんなときは、こんなふうに考えましょう。
「伸びる」は薄く広がるという意味も短かったものが長くなるという意味もまっすぐにするという意味もあるので、ナイトクリームも伸びますし、背も伸びます。記録も伸びますし、勢力も伸びます。足をまっすぐに伸ばすこともできますし、髪を伸ばすこともヒゲを伸ばすこともできます。
「伸びる」は「縮む」の対語なのです。
「延びる」はもとからあったものが延長することであり、時間を引き延ばすことであり、また遅れるという意味もあります。例えば、私鉄が郊外まで延びますし、寿命は延びますし、出発も延びます。だから、手延べそうめんと言いますし、パイ生地を麺棒で延ばすこともあるわけです。
ちなみに、鼻の下も「伸びる」ものであって、「延びる」ものではありません。アシカラズ。
「保障」は「保証」にはならないが「補償」はできる
「保障」は政府間の条約にもありますが、障害や損害などが起きる(または起きた)場合に、その人物または国または土地を害から保護するということです。「社会保障」「安全保障」などがありますね。
そして「保証」は、今度は人、物、または物事に対して責任を負うことです。「保証書」というものは例えば家電製品などを買った場合、その製品に欠陥があったときには責任をもつという証拠になります。つまり製造者が修理もしくは取替をしなければならないと書かれています。
「補償」は漢字をみてもわかるとおり、「おぎなう」と「つぐなう」からできています。つまり何かの損失が起こった場合、その損失への賠償として、財産または健康上の損失を金銭でつぐなうことだと理解できます。
3つの熟語はどれも読みは同じでも、意味が全く違います。特にビジネスに関わる「ほしょう」は、意味を間違えたら大変なことになります。使うときには慎重にならざるをえない言葉なのです。
「厚顔」は「無知」じゃなくて「無恥」なのだった
まだまだ沢山ありますが、今回は最後にもうひとつ。
「厚顔むち」と「むち蒙昧」という熟語の「むち」ですが、同じ漢字ではありません。
「厚顔無恥」(こうがんむち)は要訳すれば「ツラの皮が厚く、他人の迷惑など全くかえりみず、恥だと思うこともなく独りよがりな行動を繰り返すひと」のこと。
そして「無知蒙昧」(むちもうまい)は、「知恵もなく、学問もなく、何も知らないひと」のことを指します。
ですから、時々みる「厚顔無知」は間違いです。
熟語としては間違いではあるけれど、昨今爆発的に増えたネットのいじめや暴言を見るにつけ、「無知」のほうがまだしも「無恥」より救いがあると思うのはわたしだけでしょうか。
さて、同音異義語を間違えてしまうと意味まで全く違ってしまうという例をいくつか紹介しました。
これだけではありませんので、いずれまた他のものもについても書きたいと思っています。ささやかな事例ですが、ほんの少しでも心の奥または頭のかたすみに置いてもらえれば嬉しいです。